コンタンゴとバックワーデーション
先物取引をファンドに組み入れているETFや投資信託、そのようなETFを原市場としたCFDで資産運用する際に気にしなければならないのが「コンタンゴ」と「バックワーデーション」です。
コンタンゴ? バックワーデーション?
これらは主に先物取引で使われる単語です。余程の投資マニアでもない限り、初めて耳にする言葉かもしれませんが、今の相場がコンタンゴなのか、それともバックワーデーションなのかは先物市場価格に連動するETF、投資信託、CFDの運用結果に大きな影響を及ぼしています。
今回は、コンタンゴとバックワーデーションが運用結果に与える影響について勉強してみたいと思います。
基本的なお話ですが、先物取引には期限があることはご存じでしょうか。例えば、ニューヨークマーカンタイル取引所(NYMEX)に上場しているWTI原油の場合、1ヶ月毎に「限月」と呼ばれる期限が設けられており、それぞれの価格は独立して動いています。
実際の相場表は次のとおりです。
WTI原油と限月
相場表.WTI原油 先物価格
限月 | 終値 | 出来高 |
---|---|---|
2022年12月 | 84.89 | 8,239 |
2023年1月 | 83.9 | 959 |
2023年2月 | 82.50 | 350 |
2023年3月 | 81.65 | 333 |
2023年4月 | 80.20 | 162 |
2023年5月 | 79.53 | 72 |
※2022年10月25日時点
上の相場表を見ると限月毎に価格が違うことが確認できます。期限の短いほうから順番に並んでいますが、2022年12月限月が84.89ドルなのに対して、2023年5月限月は79.53ドルで取引されており、両者の間には5ドル以上の開きが生じています。
ちなみに先物取引では、期限の短いものから1番限、2番限、3番限と言ったり、最も期限の短いものを期近や当限、最も期限の長いものを期先や先限と言ったりもします。ニュースなどで報道される際のWTI原油の価格は、期近限月か、中心限月(最も出来高が多い限月)のものです。
先ほどの相場表をグラフにすると次のようになります。
グラフ1.WTI原油のサヤ(バックワーデーション)
グラフにすると現在のWTI原油は期近限月よりも期限の長い限月の方が安いことが確認できます。このような状態のことを日本語で「逆ザヤ」、英語では「バックワーデーション(Backwardation)」といいます。
反対に期近限月よりも期先限月の方が高い状態も存在します。
グラフ2.コンタンゴの例
グラフ2.はバックワーデーションの反対、コンタンゴを示したものです。
グラフ2.の例は、期限が長いものの方が割高になっていますね。このような状態のことを日本語で「順ざや」、英語で「コンタンゴ(Contango)」といいます。
ETFの仕様上、これが運用結果に大きな影響を及ぼしています。
バックワーデーションの場合
グラフ1で確認したとおり、現在のWTI原油はバックワーデーションです。先物取引と現物取引の違いのひとつに限月が挙げられます。限月はいずれ取引期限を迎えてしまうため同じ限月で持ち続けることはできません。同じポジションを継続するには、期限を迎えるより前に期先の限月に乗り換え続けなければならない訳です。
「【1699】NF原油先物(NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信)」の目論見書には、NYMEX WTI先物の2番限、3番限、4番限もしくは、3番限、4番限、5番限を組み入れ対象としていると書いてあります。どういう意味なのでしょうか。
・3番限は、2023年2月限の82.5ドル
・4番限は、2023年3月限の81.65ドル
・5番限は、2023年4月限の80.2ドル
現在の価格は上記のとおりです。限月は仕組み上、1番限が期限を迎えると無くなりそれまで2番限だった限月が1番限に変わります。ETFの仕様どおりに運用するためには、2番限が1番限になる前に売却し、その資金を使って5番限を買い直さなければなりません。仮に2022年10月25日の価格で実施されるのであれば83.9ドルで売却して、80.2ドルで買い直すことになりますので3.7ドル(4.4%)安く購入することができる訳です。このような行為が毎月繰り返されています。これがバックワーデーションだった時にロールオーバー(乗り換え)した例です。
では、コンタンゴだった際にはどうなるでしょうか。
コンタンゴの場合
グラフ2で示したコンタンゴのグラフから抜き出した2番限、3番限、4番限、5番限の価格は次のとおりです。
・3番限は、2023年2月限の90ドル
・4番限は、2023年3月限の92ドル
・5番限は、2023年4月限の94ドル
ETFの仕様は、先ほどと変わらないので、2番限が1番限になる前に売却して5番限を買い直すことになります。88ドルで売って94ドルで買い直すことになるので6ドル(6.8%)高く買わなければなりません。
買い直す(ロールオーバー)行動が損益にどのように影響
少し難しくなりますが、株価指数先物取引の理論価格は、「先物理論価格=現物価格×{(1+短期金利-配当利回り)×満期までの日数/365日}」で計算されます。商品先物の場合,配当はありませんが、コンテナ代などの保管料が関係してきます。
「先物理論価格=現物価格×{(1+短期金利-配当利回り)×満期までの日数/365日}」
先物理論価格の式どおりに動くのであれば、満期までの日数が少なくなるにつれ先物価格は現物価格に近づいていきます。サヤの状況がバックワーデーションであっても、コンタンゴであっても5番限の価格は2番限に近づいていく訳です。現在(2022年10月25日)の状況であれば買い方に3ヶ月で3.7ドル(4.4%)のアドバンテージが生まれます。
パフォーマンスをグラフで見てみましょう。
次のグラフは①WTI原油、②WTI原油を円建てにしたもの③WTI原油連動型ETF(1671)の年初来からの変動を示したものです。
グラフ3.原油の価格変動
(出所:TradingViewによるWTI原油価格連動型上場投信チャート)
ピンク色で表示されているのが①WTI原油(ドル建て)です。年初来と比較して現在の価格は9.95%のプラスでした。黄色で表示させたのが、②WTI原油価格にドル円相場を掛け合わせたものです。現時点で40.29%のプラスでした。青色で表示させたのが#9314;WTI原油連動型ETF(1671)の変動を示したものです。現時点で66.09%のプラスでした。(2022年10月26日時点)
3つの中で最も高パフォーマンスだったのは、③のWTI原油連動型ETF(1671)です。現在、記録的な円安が進んでいますが、為替相場で掛け合わせたものと比べてETFは25.62%も良い成績でした。この差分がバックワーデーションによって得られた利潤です。
まとめ
原油先物が金利を生むことはありませんが、サヤという強力なアドバンテージを持っています。原油の先物市場がファンドに組み込まれている原油ETF、投資信託、CFDにおいてバックワーデーションは買い方にとって有利、コンタンゴは売り方にとって有利な相場です。パフォーマンスを狙うのであれば現在のサヤがどうなっているのか定期的に確認した上でおこなってください。
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このコメントは編集者の個人的な見解であり、内容を保証するものではありません。また、売買を推奨するものでもありません。ご了承ください。
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※2022年10月時点での情報となります。