県民所得と雇用者報酬。各業種が生み出す付加価値など
2023年06月27日
皆さま、おはようございます。CFP(ファイナンシャルプランナー)のワイワイこと岩井です。
前回のコラム「最低賃金と物価」では各都道府県の最低賃金について調べてみましたが、最低賃金の審議を行っている中央最低賃金審議会の資料をさらに読み込んでみると色々なことが見えてきます。
今回は、審議会の資料を読んでみて気づいたことをご紹介したいと思います。
1.東京だけは「1人当たりの県民所得」の方が「1人当たりの県民所得」より大きい。
表1.1人当たり県民所得と雇用者報酬(ランクAの6都道府県のみ)
1人あたり県民所得 | 1人当たり雇用者報酬 | |
東京 | 5,813,231 | 5,688,808 |
愛知 | 3,778,977 | 4,957,190 |
神奈川 | 3,161,951 | 5,118,733 |
千葉 | 3,082,884 | 4,910,600 |
大阪 | 3,012,549 | 4,886,462 |
埼玉 | 3,040,438 | 4,630,324 |
出典:中央最低賃金審議会目安制度の在り方に関する全員協議会報告
県民所得は、GDPにおける国民所得と同じ考え方で計算します。国民所得であれば国民全体が得る所得の総額なので、付加価値の総額であり、個人、法人が得られる所得を表しています。それを1人当たりに直したものが1人当たりの国民所得です。「1人当たりの県民所得」であれば、県民所得を地域人口で割ることになります。一方、雇用者報酬は、勤務する従業員や役員などに支払われた報酬金額の総額を指し、それを一人当たりにしたものが一人当たり雇用者報酬です。
表1.1人当たり県民所得と雇用者報酬をみると「1人あたり県民所得」が「1人当たりの雇用者報酬」を上回っているのは東京だけでそれ以外の都道府県は、「1人当たりの雇用者報酬」の方が大きくなっています。
どうしてこのような結果になってしまうのか正確な答えは分かりませんが、県民所得は県の所得を県の人口で割ったものなので非労働者の割合いが多い都道府県の県民所得が極端に下がってしまうことが考えられます。また、東京には大企業の本社が集中しており、少人数で高い付加価値を生み出していることも要因と言えそうです。
2.1事業従事者が生み出す付加価値は業種によって随分違う
表2.1事業従事者が生み出す付加価値(ランクAの6都道府県のみ)
製造業 | 建設業 | 卸売業 | 小売業 | 飲食サービス業 | サービス業 | |
東京 | 7,678,089 | 8,248,613 | 10,573,667 | 4,859,533 | 2,287,580 | 5,455,739 |
神奈川 | 7,122,697 | 6,277,121 | 8,616,016 | 3,803,265 | 1,982,597 | 4,859,659 |
大阪 | 6,722,087 | 7,400,929 | 9,175,134 | 3,775,610 | 1,815,642 | 4,829,785 |
愛知 | 8,215,597 | 6,433,339 | 8,399,687 | 4,077,647 | 1,977,308 | 4,182,855 |
千葉 | 6,610,571 | 5,686,342 | 8,759,765 | 3,919,130 | 1,978,577 | 4,132,887 |
埼玉 | 6,052,254 | 5,673,734 | 8,132,300 | 3,656,149 | 1,931,658 | 3,688,452 |
出典:中央最低賃金審議会目安制度の在り方に関する全員協議会報告
企業が営んでいる事業によって1事業従事者が生み出す付加価値の金額が異なります。公表されている6業種の中で最も付加価値を生み出していたのは卸売業でした。最も金額が大きかった東京では、1000万円を上回っており、それ以外の都道府県でも800万円台から900万円台と大きな付加価値が生み出されていることが解ります。逆に金額が少なかったのが飲食サービスでした。
飲食サービスに関しては、1事業従事者が生み出す付加価値が東京でも228万円、それ以外の都道府県では200万円を割り込んでしまっています。卸売業と比べると4分の1ぐらいの金額にしかなりません。
一般に付加価値の中には人件費が含まれていますので、1事業従事者が生み出す付加価値以上の従業員報酬が分配されることはありません。
どんな業種であってもその仕事に従事する人がいなければ成り立たない訳ですが、業種によって生み出される付加価値は異なり、その違いは労働者に分配される給与にも影響を及ぼしています。
前回のコラムでは最低賃金についてクローズアップしましたが、賃金の平均値を上昇させるためには多くの付加価値を生み出す産業に従事する人の数を増やす必要があります。
簡単なことではありませんが、賃金問題の解決には必要な課題なのかもしれません。みんなの所得が増えて経済が好循環することを願いたいですね。
このコメントは編集者の個人的な見解であり、内容を保証するものではありません。また、売買を推奨するものでもありません。ご了承ください。
・第65回中央最低賃金審議会 資料