
歴史的高値圏から揺れる金(Gold)
「リスクオフ(リスク回避)」とは、投資家が株式などのリスク資産から資金を引き揚げ、より安全とされる資産へ資金を移す市場環境を指します。例えば、株式を売却して(株価が下落)、国債などを買う動きが代表的です。
こうした局面で買われやすい資産の一つが「金(ゴールド)」です。ただし、過去には新型コロナウイルス拡大時のように、資金確保のためあらゆる資産が売られる局面もあり、安全資産とされる金でさえ一時的に下落する場面も見られました。
足元では、米国とイランの停戦合意を巡る先行き不透明感に加え、原油相場の乱高下や米国の金融政策の方向転換など、複数の要因が重なり金融市場は大きく変動しています。この影響を受け、安全資産である金も歴史的高値圏から調整局面に入っています。

以下、現時点(2026年8月31日時点)の金価格に影響を与えている変動要因をお伝えします。
主要中央銀行の政策金利の最新動向
2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降に続いた世界的なインフレは、2025年にかけて鈍化しました。2026年に入ってからは、中東情勢の緊迫化やエネルギー価格の上昇を背景に、インフレ圧力が再び強まっています。
こうした環境のもと、主要中央銀行は一律に金融緩和を進める局面から、インフレ動向を見極めながら政策金利を慎重に運営する段階に移っています。
特に米国では、インフレ再加速への警戒から利下げに慎重な姿勢が続く一方、欧州中央銀行(ECB)は6月に利上げへ転じ、その後は据え置いています。日本銀行(日銀)も政策金利を1.0%まで引き上げ、金融正常化を進めています。
■主要国の政策金利動向(2026年9月1日時点)
主要中央銀行は、インフレ圧力の根強さとエネルギー価格の動向を注視し、総じて「慎重な姿勢」を維持しています。市場では、一部で追加利上げを織り込む動きも出ています。
・米連邦準備制度理事会(FRB): 3.50~3.75%
FRBは、2026年7月28~29日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を3.50~3.75%に据え置きました。7月会合では9対3で据え置きを決定し、今後の金融政策については、インフレと雇用の双方を見極めながら判断する姿勢を維持しています。
一方、8月28日のジャクソンホール会議では、ウォーシュ議長が将来的な利上げを排除しない姿勢を示しており、中東情勢や原油価格の上昇を背景にインフレ再加速への警戒感が強まっています。市場では、9月以降の金融政策を巡る不透明感が高まっています。
次回のFOMCは9月16~17日に予定されています。
・欧州中央銀行(ECB): 2.25%
ECBは、2026年6月11日の理事会で、主要政策金利を25bp引き上げ、預金ファシリティ金利を2.25%、主要リファイナンス金利を2.40%、限界貸出金利を2.65%としました。その後、7月23日の理事会ではこれらの金利を据え置いています。
ECBは、特定の金利経路をあらかじめ約束せず、インフレ見通しや基調的な物価動向、金融政策の波及効果などを踏まえて政策を判断する姿勢を示しています。中東情勢によるエネルギー価格の上昇が物価に与える影響も、今後の重要な判断材料となります。
次回のECB理事会は9月10日に予定されています。
・イングランド銀行(BOE): 3.75%
BOEは、2025年12月に政策金利を3.75%へ引き下げた後、2026年7月まで据え置きを続けています。8月時点の政策金利は3.75%です。
英国では、インフレ率が2%を上回る状況が続いており、賃金やサービス価格の動向が金融政策を左右する重要な要因となっています。中東情勢を背景としたエネルギー価格上昇もインフレ圧力を高める可能性があり、BOEは追加利下げに慎重な姿勢を続けています。
次回の金融政策委員会は9月17日に予定されています。
・日本銀行(日銀): 1.00%
日銀は、2026年6月16日の金融政策決定会合で政策金利を0.75%から1.00%へ引き上げました。7月31日の会合では1.00%で据え置き、無担保コール翌日物金利を1.0%程度で推移させる方針を維持しています。
日銀は、経済・物価情勢を見極めながら、基調的な物価上昇率が2%の物価安定目標に向かう場合には、金融緩和度合いを調整していく姿勢を示しています。
次回の金融政策決定会合は9月17~18日に予定されています。
■各国の政策スタンス
FRB:インフレ再加速への警戒が強く、利下げには慎重な姿勢です。エネルギー価格上昇などによって物価上昇圧力が再び強まれば、利上げする可能性があります。
ECB: 6月に利上げへ転じた後、7月は据え置きました。今後はインフレ見通しとエネルギー価格の動向を見ながら、追加利上げの必要性を判断する姿勢です。
BOE:政策金利を3.75%で維持しています。インフレと賃金上昇の粘着性を警戒し、追加利下げには慎重です。
日銀:政策金利を1.0%まで引き上げ、金融正常化を進めています。今後は景気や物価、為替、海外情勢などを確認しながら、追加利上げの時期を判断する局面となっています。
■金(ゴールド)への影響
下落圧力: 実質金利の上昇や利上げ観測の強まりは、利息を生まない金にとって逆風となります。特にFRBの利下げ観測が後退し、米国債利回りやドルが上昇する局面では、金価格に下押し圧力がかかりやすくなります。
また、ECBや日銀による金融引き締めも、世界的な金利水準を押し上げる要因となります。
下支え要因: 一方、地政学的リスクへの警戒、財政・金融政策への不透明感は、安全資産としての金需要を支える要因です。
特に中央銀行による金購入は、短期的な価格変動とは別に、外貨準備の分散やドル依存度の低下を目的とした構造的な需要として金相場を下支えしています。
■地政学的リスクと安全資産需要
地政学的プレミアム: 中東情勢の緊迫化は、通常は安全資産としての金需要を高める要因となります。
一方、原油の供給不安から原油価格が上昇し、インフレ再燃への警戒が強まれば、各国中央銀行による金融引き締めが長期化するとの見方につながります。
金利上昇によって利息を生まない金の投資妙味が低下するため、足元では地政学リスクの高まりが必ずしも金価格の上昇につながらず、むしろ金利上昇を通じて金相場の下押し要因となる場面がみられます。
米中覇権争い: 米中間では、ハイテク・半導体など戦略分野を巡る競争が続いており、世界経済やサプライチェーンの不確実性を高める要因となっています。
ボラティリティ:短期的には米金利、ドル、原油価格、地政学情勢の変化によって金価格の値動きが大きくなる可能性があります。特に米金融政策の方向性が不透明な局面では、金相場も振れやすくなるとみられます。
■中央銀行の金購入動向
ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、中央銀行の金購入は2026年も高水準を維持しています。ただし、2026年第1四半期の購入量については、その後のデータ修正によって大きく変わっている点に注意が必要です。
当初、2026年第1四半期の中央銀行・公的機関による金の純購入量は約244トンとされていましたが、追加データと分析を反映した見直しにより57トンへ下方修正されました。差額の187トンはOTC取引などに再分類されています。
一方、第2四半期の純購入量は289トンに急増しました。この結果、2026年上期の中央銀行・公的機関による純購入量は345トンとなっています。これは前年までの高水準と比べると伸びが鈍化しているものの、中央銀行の金に対する戦略的な需要が根強いことを示しています。
国別では、2026年上期の最大の買い手はポーランドで82トン、次いでウズベキスタン41トン、中国40トン、カザフスタン27トンとなっています。
一方、売却ではトルコが83トン、ロシアが44トンの年初来売却を記録しています。トルコの売却は主に第1四半期に集中し、第2四半期には4トンに縮小しました。ロシアは第2四半期にも22トンを売却しています。
こうした売却は、中央銀行全体が金から離れていることを意味するものではありません。WGCの中央銀行金準備調査では、今後12カ月で世界の公的金準備が増加すると予想する回答者が89%、自国の金保有を増やすと回答した割合も45%に達しました。
その背景には、外貨準備の分散、地政学・金融市場の不確実性への備え、ドルへの過度な依存を避ける動きなどがあります。高値圏では一部の国による利益確定や流動性確保のための売却が発生する一方、中央銀行による金保有の長期的な戦略的重要性は維持されているとみられます。
■総括
2026年9月1日時点では、主要中央銀行の金融政策は「一斉利下げ」から「インフレと景気を見極めながらの慎重な政策運営」へと移行しています。
FRBは3.50~3.75%で政策金利を据え置き、ECBは2.25%で据え置き、BOEは3.75%、日銀は1.0%となっています。今後は中東情勢による原油価格の変動がインフレと金融政策にどの程度影響するかが重要な焦点となります。
金市場では、金利上昇やドル高が上値を抑える一方、地政学リスクや中央銀行の構造的な金需要が下支え要因となっています。中央銀行の購入ペースには四半期ごとの振れがあるものの、外貨準備の分散を目的とした金保有拡大という長期的な流れはなお継続しているとみられます。
【2026年8月31日時点】

出所:Bloombergのデータを元にフジトミ証券作成
【金(標準)先物と主要金融指標の推移】
NYダウや日経平均株価が史上最高値圏にある中、金標準指数が強い上昇基調を示していることから、金融資産の中でも金に資金が集まっている状況が続いています。
【2026年8月31日時点】

出所:Bloombergのデータを元にフジトミ証券作成
コロナショック後の金価格は、他の金融指標に比べて堅調に推移しています。
上のグラフは、金(標準)先物と、日経225、NYダウ、独DAX®、英FTSE100の2020年年初来のチャートです。
主要国の株価指数も一部を除いては、世界的な金融緩和や新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いていることもあり、最高値を更新しています。
一方で、金価格は米利下げ観測や地政学リスクの継続などを背景に過去最高値を更新しています。
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