
TRIX(トリックス)は、トレンドの勢いを滑らかに示すモメンタム系テクニカル指標の一つです。
TRIXは米国テクニカル誌 『Technical Analysis of Stocks & Commodities』の編集者であるジャック・ハットソン(Jack Hutson)によって1983年に発表されました。
価格追随性の高い非常に滑らかな移動平均(TEMA=Triple Exponential Moving Average:3重指数平滑移動平均)の前日比を求めることで、ノイズを大幅に除去しつつトレンドの方向とその変化を可視化します。
一言でいえば、「滑らかなMACD」のような存在です。
1. TRIXの計算式と仕組みをわかりやすく解説
1-1. 計算式
1-1-1. TRIXの計算式
TRIXは以下の手順で算出されます。
【TEMAの計算】
TEMA (x) = 3 × EMA (x) – 3 × EMA ( EMA ( x ) ) + EMA ( EMA ( EMA ( x ) ) )
【TRIXの計算】
TRIX (x) = ( TEMA (x) – TEMA (x-1) ) ÷ TEMA (x-1) × 100
式だけを見ると難しそうに見えますが、TEMAを通常の移動平均( = MA )に置き換えると簡単で、単に移動平均の変化率(通常は前日比:%)を示しているだけのことです。
TRIX (x) = ( MA (x) – MA (x-1) ) ÷ MA (x-1) × 100
※MA (x)は、当日の移動平均
※MA (x-1)は、前日の移動平均
1-1-2. シグナルの計算式
TRIXには、補助指標の「シグナル」が描画されることがあります。
シグナルの計算式は以下のとおりで、TRIXを指数平滑移動平均することでTRIX自体のトレンドを示しています。
シグナル=EMA(TRIX)
1-2. 仕組み
さて、ここまで分かれば、なんのこともありません。
TRIXが示しているのは、トレンドの勢いとその変化になります。
TRIX > 0 なら上昇トレンド、TRIX < 0 なら下降トレンド、また、TRIX > 0 で上昇基調なら相場の上昇速度が増していることを、TRIX < 0 で下降基調なら相場の下落速度が増していることを意味します。
【日経平均株価の日足とTRIX】

1-3. TEMAについての補足
ここではTEMAの計算式について深堀りしますが、読み飛ばしてしまっても構いません。
TEMA(3重指数平滑移動平均)は、上述のとおり移動平均の一種で、EMA(指数平滑移動平均)の派生形です。
上記の式を詳しくしたものが、次の計算式です。
【EMA1 (x) の計算】
EMA1 (x) = EMA1 (x-1) + α × ( 終値 – EMA1 (x-1) )
【EMA1 (x) をさらに指数平滑化しEMA2 (x) を計算】
※EMA2 (x) を、DEMA(Double Exponential Moving Average:2重指数平滑移動平均)と言います。
DEMA (x) =EMA2 (x) = EMA2 (x-1) + α × ( EMA1 (x) – EMA2 (x-1) ) = 2× EMA1 (x) – EMA1 ( EMA1 ( x ) )
【TEMA (x)の計算】
EMA2 (x)を指数平滑化したものがTEMA (x)です。
TEMA (x) = 3 × EMA1 (x) – 3 × EMA1 ( EMA1 ( x ) ) + EMA1 ( EMA1 ( EMA1 ( x ) ) )
EMA ⇒ DEMA ⇒ TEMAの3段階の平滑化により、TEMAは、最もポピュラーな単純移動平均(SMA)や指数平滑移動平均(EMA)に比べて、価格への追随性を損なわず、短期的な価格ノイズを除去し、相場推移をよりスムーズに捉えられるのが特長です。
それでは、DEMAやTEMAは、どのような移動平均なのでしょうか?
これらを利用できるチャートツールでは、 株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドが提供する「Win-Station®」(有料)やTrading Viewのスーパーチャートなどが挙げられます。
フジトミ証券では、私以外のアナリストがWin-Station®のチャートを利用して情報配信を行っていますので、今後、DEMAやTEMAを見かけることがあるかもしれません。
ちなみに、今回はMicrosoft社のExcelを使用し、価格情報からDEMAとTEMAを算出・チャート化しました。
なお、比較しやすいように単純移動平均(SMA)と指数平滑移動平均(EMA)も表示しています。
※平均化の期間は全て50日
【米ドル円の日足チャート 50期間のSMA、EMA、DEMA、TEMA】

上記は、米ドル円の日足チャート(灰色)にそれぞれ50期間の単純移動平均、(SMA:赤)、指数平滑移動平均(EMA:青)、2重指数平滑移動平均(DEMA:黄色)、3重指数平滑移動平均(TEMA:緑)を表示させたものです。
SMAよりもEMAの方が、EMAよりもDEMAの方が、DEMAよりもTEMAの方が、価格への追随性が高いことがわかります。
2. TRIXの使い方と基本的な売買サイン
TRIXの使い方は非常にシンプルです。
主に以下の3つのサインで判断します。
2-1. TRIXと0(ゼロ)ライン
TRIXが0ラインを上回る:相場が上昇トレンドへ転換 ⇒ 買いシグナル
TRIXが0ラインを下回る:相場が下降トレンドへ転換 ⇒ 売りシグナル
これは次を意味します。
TRIXが0ラインを上回れば、移動平均(TEMA)の傾きはプラスなので、相場は上昇トレンド
TRIXが0ラインを下回れば、移動平均(TEMA)の傾きはマイナスなので、相場は下降トレンド
ただし、TRIXと0ラインの交差は、売買サインがやや遅いという点に注意が必要です。
【USDJPY 週足 TRIXと0ラインの交差】

2-2. TRIXとシグナル交差
「シグナル」はTRIXの移動平均で、TRIX自体のトレンドを可視化しています。
TRIXがシグナルを上回る:TRIXが上昇トレンドへ転換 ⇒ 買いシグナル
TRIXがシグナルを下回る:TRIXが下降トレンドへ転換 ⇒ 売りシグナル
TRIXとシグナルの交差の判断には注意が必要です。
TRIXは移動平均の傾きを示しているので、TRIXがプラス圏なら上昇トレンドの傾き、マイナス圏なら下降トレンドの傾きです。
したがって、TRIXがシグナルを上回ってもマイナス圏なら、下降トレンドの転換が確認できたことにはなりません。
しかし、トレンドの転換自体、相場が反転して時間を経て確認できるものです。
また、TRIXの動きは相場の上昇下落とマッチしています。
そのため、トレンド転換の予兆として、このような売買シグナルになるのです。
【ドル円 週足 TRIXとシグナルの交差】

2-3. 価格とTRIXのダイバージェンス
価格が高値更新中にTRIXが下向き → 相場上昇の勢いが衰えている可能性があり相場の下落転換を示唆
このような逆行現象を「弱気のダイバージェンス(あるいは単にダイバージェンス)といいます。
価格が安値更新中にTRIXが上向き → 相場下落の勢いが衰えている可能性があり相場の上昇転換を示唆
このような逆行現象を「強気のダイバージェンス(あるいはコンバージェンス※)といいます。
※視覚的に価格と指標が近づいているため、しばしばコンバージェンス(収束)と表現することがあります。
オシレータ系やモメンタム系のテクニカル指標において、「ダイバージェンス」は、トレンド転換の初期サインとして重視されています。
【USDCHF 週足 ダイバージェンスの例】

2-4. TRIXの売買サイン まとめ
ここまででTRIXの売買サインは、MACDに似ていると思った方も多いでしょう。
⇒MACDについての解説はこちらの記事を参照ください。
実際、どちらの指標も相場のトレンドとその勢いの変化を把握するツールです。
売買サインも、TRIXでは、0ラインとの交差、TRIXとシグナルの交差、指標のダイバージェンスと、MACDの売買サイン(macdとシグナルの交差、macdと0ラインの交差、指標のダイバージェンス)と同じですから、「滑らかなMACD」と言えるのです。
3. TRIXの設定値とおすすめ期間
3-1. パラメータは12がデフォルト
TRIXのパラメータは、12が良く利用されています。
ただし、取引する資産クラスや銘柄、トレードスタンス(長期投資、ポジショントレード、デイトレード、スキャルピング等)や利用するチャート期間(月足、週足、日足、イントラデイチャート等)に合わせて調整するようにしましょう。
もし、TRIXを売買サインの指標ではなく、長期トレンドの勢いの確認を目的に利用するのなら、12よりも長めのパラメータ(例えば30を超えるような設定)で利用することも可能です。
また、短い期間でトレンドが変わるような資産クラスや銘柄なら、5~9といった短めの設定にすべきです。
反対に、長いトレンドが続きやすい資産クラスなら、12を超える設定でもかまいません。
3-2. フジトミトレーダーでのパラメータ設定
フジトミ証券では、TRIXのパラメータを3つ設定可能です。
3-2-1. TEMAの期間
1つ目は、TEMAの計算期間です。
12がデフォルトですが、上述のとおり5から15程度で設定すると良いでしょう。
3-2-2. TEMAの比較期間
2つ目は、TRIXの計算期間です。
通常は1に設定し、基本的に変更しません。
※前日のTEMAに対する当日のTEMAの騰落率という意味のため
仮に2と設定した場合、日足チャートなら2日前のTEMAに対する当日のTEMAの騰落率となります。
3-2-3. シグナルの計算期間
3つ目は、シグナルの計算期間(TRIXの移動平均期間)です。
一般的には1つ目のパラメータよりも小さく設定します。
そもそも、TRIX自体が非常に滑らかな移動平均線のモメンタムなので、3から5ぐらいで設定します。
ただし、短く設定した場合は、TRIXとシグナルの交差が多くなりダマシも増えるため、トレードする資産クラスに合わせて調整するようにしましょう。
【フジトミトレーダーのTRIXのパラメータ設定画面】

4. TRIX vs MACD
TRIXはMACDと非常に似たテクニカル指標です。
2つのテクニカル指標の計算式からも、考案されたコンセプトが同様なことが伺えます。
最も異なるのは、TRIXが3重平滑処理によるノイズ除去効果により、MACDよりも滑らかである点です。
MACDの方がメジャーで利用者が多いため、アナリストレポート等でTRIXを見ることは少ないかもしれません。
しかし、使い方はMACDと同じなので、個々の投資家が利用する場合、より滑らかで売買サインも早めに点灯するTRIXの方が使い勝手がいいかもしれません。
【チャート上でのTRIXとMACD】

5. TRIXと他のテクニカル指標との併用
5-1. 移動平均系指標とTRIX
TRIXを利用するのであれば、移動平均系のテクニカル指標との併用がお勧めです。
単純移動平均や指数平滑移動平均でもいいですが、ボリンジャーバンドやエンベロープなどであれば、相場のトレンドに加えて押し目買いや戻り売りの目途の確認が可能です。
もちろん、トレンド系テクニカル指標として「一目均衡表」との併用もあると思います。
5-2. ストキャスティクスとTRIXの併用
MACDの開発者であるジェラルド・アペルは、MACDに加えてストキャスティクスを併用していたことが知られています。
同じようなコンセプトで、TRIXでトレンドの変化を確認し、ストキャスティクスで過熱感を推し量るというのも1つです。
5-3. DMI(方向性指数)とTRIX
DMIを構成する指標の1つであるADXもトレンドの有無とその強さを確認するツールです。
加えて買い圧力と売り圧力の状態を示す+DIと-DIの確認も可能です。
DMIとTRIXを併用しトレンドの強さをダブルチェックするという考え方もあると思います。
5-4. TRIXとMACDの併用は、あまり意味が無い
TRIX(12,1,5)とMACD(12,26,9)の併用はあまり意味がありません。
もし併用するのであれば、どちらか一方の指標のパラメータを大きく設定し、短期用と中長期用として使い分けると良いでしょう。
6. TRIXのメリットと限界
6-1. メリット
・ノイズが少なく、トレンドフォローに強い
・トレンドの向きと強さの変化をなめらかに捉えられる
・ダイバージェンス分析にも有効
6-2. デメリット
・レンジ相場では反応が遅れやすい※パラメータによる
・MACD同様、0ラインとの交差での売買判断は、タイミングが遅くなる
・MACD同様、シグナルとの交差での売買判断は、ダマシに注意が必要
7. まとめ:TRIXはトレンドの変化を見極める「静かな名脇役」
TRIXは、価格の細かな揺れを取り除きながら、トレンドの方向と勢いをなめらかに描き出す優れた指標です。
「桐一葉落ちて天下の秋を知る」とは、元々は秋の訪れを読んだ詩でしたが、転じて小さな出来事が大きな変化への予兆を示していることを意味します。
是非、相場の変化を読むツールとしてTRIXを活用してみてください。
さて、もう少ししたらハロウィーンですね。
ジャックの作ったTRIXで、「 Trix and Trade 」 ———。





