
投資の世界では「トレンドに乗れ」とよく言われます。相場のトレンドを視覚的に捉えるために欠かせないのが「移動平均線」です。
この記事では、株式・FX取引の基礎知識として知っておきたい、移動平均線の見方や活用法を初心者にもわかりやすく解説します。
1. 移動平均線とは?
移動平均線とは、ある一定期間の価格の平均を線で結んだテクニカル指標で、相場の推移を平滑化(なめらかに)し、トレンドの方向と速度を視覚的に示してくれるツールです。
テクニカル分析ツールの中でも、最もポピュラーなツールで、初心者だけでなくベテラントレーダーやプロのディーラーも活用しています。
【NASDAQ-100 週足 13週/26週/52週移動平均線 (2021年10月22日~2025年5月22日)】

注釈:複数の移動平均線を重ねると、トレンドの強さや転換点をつかみやすくなります。
上記のグラフの黄色く囲った部分をご覧ください。Nasdaq-100の13週/26週/52週移動平均線は右肩上がりで上昇しており、相場が上昇トレンドだったことが確認できます。
また、上昇トレンド時は、価格が移動平均線よりも上側にある期間が多いことに気づかれる方もいらっしゃるでしょう。
このように、チャートに移動平均線を表示することで、その銘柄が上昇トレンドか下降トレンドかを簡単に読み取ることができます。
1-1.単純移動平均(SMA)の計算
例:5日移動平均線の場合
5SMA=過去5日間の終値の合計÷5日
【計算方法】

1-2.単純移動平均(SMA)の特徴
1-2-1.平滑化(スムージング)
価格を移動平均することで、ジグザグに動いている価格変動を平滑化し、方向性(トレンド)とその強さ(速度)を把握することができる
・方向性(トレンド):移動平均線の向きにより相場の方向性を把握できる
・トレンドの強さ(速さ):移動平均線の「傾き(角度)」により相場の速度を把握できる
【NYダウ 日足チャート 25MA】

1-2-2.遅行性
移動平均する期間の2分の1の期間、遅行する
次のチャートは、NYダウの日足チャートに25MA、「25MAを13日分過去にシフトしたグラフ」を表示したものです。
25MAは、相場の転換点(天井や底値)よりも遅れて、移動平均の傾きが変化していますが、「25MAを13日分過去にシフトしたグラフ」は、相場の転換点付近、ほぼ同じようなタイミングで傾きが変化していることがわかります。
このように、単純移動平均は、平均化する期間の2分の1の期間、相場から遅行する傾向があります。移動平均の遅行性はデメリットとも言えます。しかし、この遅行性を活用することで、後述(4-4.移動平均の活用法のまとめ)のとおり売買タイミングなどを探るツールになりえます。
【NYダウ 日足チャート 25MA 25MA(-13)】
NYダウの日足チャートに25MA、「25MAを13日分過去にシフトしたグラフ」

【NYダウ 日足チャート 5MA 5MA(-3)】
NYダウの日足チャートに5MA、「5MAを3日分過去にシフトしたグラフ」

1-3.移動平均でわかること
移動平均によりわかることは、以下の通りです。
1.移動平均の方向性から相場のトレンドがわかる(≒トレンドラインとして利用できる)
2.移動平均の傾きから相場の速度がわかる
3.移動平均の値から、計算期間における損益分岐点がわかる
(計算期間における投資家の平均取引価格であるため)
4.移動平均する期間を短くすることで短期的なトレンドを、長くすることで長期的なトレンドを把握することができる
2. 移動平均線の種類
移動平均線には、様々な種類のものがあります。代表的なものは以下のとおりです。
・単純移動平均(SMA)
・修正移動平均(RMA)
・指数平滑移動平均(EMA)
・加重移動平均(WMA)
・出来高加重移動平均(VWMA)
・2重指数平滑移動平均(DEMA)
・3重指数平滑移動平均(TEMA)
・三角移動平均(TMA)
マーケットでは、一般的に単純移動平均(SMA)が最もポピュラーですが、他の移動平均は、主に単純移動平均線のデメリットである遅行性を低減し価格追随性を高めることを目的に開発されました。その中でも、SMA以外でよく利用されているものは、指数平滑移動平均(EMA)です。
SMA(単純移動平均)とEMA(指数平滑移動平均)の違い
・SMA :過去n期間の平均値(全ての価格の重み付けが同じ)で遅行性が大きい
・EMA:直近価格に重み付けし指数関数的に減少するため価格追随性が高い
【NYダウ日足チャート 25日SMAと25日EMAの比較グラフ】

上記のグラフは、NYダウの日足チャートに同じ期間(25日)の25SMA(赤)と25EMA(緑)を表示したものですが、25SMAよりも25EMAの方がより早くトレンド転換を示していることがわかります。
EMAの計算式
当日のEMA = 前日のEMA + 2 ÷ ( n + 1 ) × ( 当日終値 – 前日のEMA )
これだとなんのことやら、分かりにくいと思います。そこで、n=3としてこの式を計算すると、次のようになります。
当日のEMA =当日の終値÷2+前日の終値÷4+前々日の終値÷8+前々々日の終値÷16+・・・・・・
日々の価格に対する「重み付け」を同じ期間(3日)の単純移動平均(SMA)と比較したものが、次のグラフです。

3SMAは、それぞれの「重み付け」は33.33%です。当日終値、1日前の終値、2日前の終値をそれぞれ3分の1して合計した価格なので当然のことです。一方、3EMAは、当日終値が50%、1日前の終値が25%と指数関数的に減少していることが分かります。こういった計算をおこなうことで、直近の価格に「重み付け」をすることで、価格追随性を高めているということです。
なお、3EMAの場合、過去3日間の価格だけで計算されるのではなく、それよりも過去の価格の影響を(影響度合いが減少するとは言え)半永久的に受けることもわかります。
4. 移動平均の利用方法
上述のとおり、移動平均は、その方向性を確認することで相場のトレンドを把握できます。
その際の基本となるのは、以下のとおりです。
・上昇トレンド:移動平均が右肩上がり、価格は移動平均の上側に位置
・下降トレンド:移動平均が右肩下がり、価格は移動平均の下側に位置
※ただし、移動平均は遅行性がある(価格追随性が遅い)ため、相場が転換した後に、移動平均の傾きが変化する傾向があります。
【NYダウ 日足 25MA】

4-1.グランビルの法則
「グランビルの法則(Granville’s Law)」は、1960年にアメリカのアナリスト、ジョセフ・E・グランビル(Joseph E. Granville)が『A Strategy Stock Market Timing for Maximum Profit』で200日移動平均線を用い、「移動平均線の傾き」と「移動平均線と価格の関係性」に基づいた8つの売買のタイミングを示す理論で、これによって移動平均に対する認識がマーケット参加者に広まりました。※グランビルは「移動平均」の開発者ではありません。

【買いサイン】
①買い1:移動平均が下向きから上向きに転換し、価格が移動平均を上回る
②買い2:価格が上向きの移動平均線を一時的に下回り再び上回ったとき
③買い3:価格が上向きの移動平均付近まで下落したが再び上昇し始めたとき
④買い4:価格が下向きの移動平均を大きく下回ったとき
【売りサイン】
⑤売り5:移動平均が上向きから下向きに転換し、価格が移動平均を下回る
⑥売り6:価格が下向きの移動平均線を一時的に上回り再び下回ったとき
⑦売り7:価格が下向きの移動平均付近まで上昇したが再び下落し始めたとき
⑧売り8:価格が上向きの移動平均を大きく上回ったとき
4-2.移動平均のクロスオーバーメソッド(ゴールデンクロスとデッドクロス)
2つの移動平均、すなわち短期移動平均と長期移動平均の交差(クロスオーバー)による売買サインです。海外で「Moving Average CrossOver Method」として利用されていましたが、山一証券のアナリストだった吉見俊彦氏が「ゴールデンクロス(GC)」と「デッドクロス(DC)」と命名して紹介いたしました。
なお、現在では、それが海外で逆輸入され欧米では「ゴールデンクロス(GC)」と「デッド(デス)クロス(DC)」、中国では「黃金交叉」と「死亡交叉」として呼ばれています。
【5MAと25MAのゴールデンクロスとデッドクロスのタイミング】

ゴールデンクロス:短期線が長期線を下から上に抜ける → 買いシグナル
デッドクロス:短期線が長期線を上から下に抜ける → 売りシグナル
なお、本来のゴールデンクロスとデッドクロスは、2つの移動平均線がクロスオーバーするタイミングを意味しますが、最近では2つのラインの交差※についても同様の表現を使う投資家が増えています。※MACDとシグナル、ストキャスティクスの%DとSlow%D、DMIの+DIと-DI等
しかしながら、テクニカルアナリストとして、移動平均線以外のテクニカル指標において、ゴールデンクロスやデッドクロスといった表現を、一言の断りもなく、のべつ幕無しに利用する人を見かけると、「見識不足」という印象は拭えません。(あまり、そういった人からは、表面だけの知識や付け焼刃の知識の可能性があるため、テクニカルを勉強しない方がいいのではないかなとも思ってしまいます。)
4-3.2本の移動平均と価格の位置関係

2つ以上の移動平均線と価格の位置関係でも、相場の局面を把握することができます。上のイメージ図は、長短2本の移動平均線と価格の位置関係を示したものです。
左下の「底打ち」を基準に見ていきましょう。
一般的に「底打ち」後の価格は、はじめに短期MAを上回り、次いで長期MAを上回ります。その後は、短期MAが長期MAを上回ってGCが形成されたことで明確な「上昇トレンド」が確認できるようになります。
価格の「ピークアウト(天井をつける)」後は、価格が短期MAを下回り、次いで長期MAを下回ります。その後は、短期MAが長期MAを下回ってDCが形成され、明確な「下降トレンド」が確認できるようになります。
このように、価格と移動平均の位置関係を理解しておくことで、相場が今どのような局面なのかを把握することができます。
4-4.移動平均の使い方のまとめ
移動平均は、トレンドを確認するツールですが、上記のように売買サインや相場環境の把握にも利用できます。
また、グランビルの法則(特に「買い1~3」と「売り5~7」)とゴールデンクロスとデッドクロスは、移動平均の遅行性といったデメリットを活かした売買シグナルになります。
これを確認するには、以下のように価格チャートに少し未来にシフトさせた価格チャートを並べると理解しやすいです。
【日経平均株価 ローソク足 ピンク:終値を5日未来にシフト】

ピンクのラインは、終値を単純に5日分未来にシフトしたものですが、グランビルの法則が機能する局面が多いことがわかります。
このように移動平均の遅行性はデメリットでもありますが、この遅行性を活用した売買ルールが、「グランビルの法則」や「ゴールデンクロス・デッドクロス」になっているということです。
5. 移動平均のパラメータはどの程度にするべきか
一般的に、移動平均のパラメータ(期間)は、以下を利用することが多いです。
日足:5日、20日、21日、25日、30日、40日、50日、60日、75日、90日、100日、125日、150日、200日
※株式市場では、一週間は5営業日の為、5の倍数を利用することが多い
※外国為替市場では、25日よりも21日(一か月の営業日数)を利用することが多い
週足:5週(25日)、13週(65日=3ヵ月)、20週(100日)、26週(130日=6ヵ月)、40週(200日)、52週(260日=1年)
月足:6ヵ月、12ヵ月(1年)、24ヵ月(2年)、48ヵ月(4年)、60ヵ月(5年)
このように日足では、一週間の営業日数である5日や1ヵ月の営業日数である21日や25日、週足では四半期を意味する13週、半期を意味する26週、1年を意味する52週といったライフサイクルをベースに移動平均のパラメータ(期間)を設定しています。
そのため、日中足(イントラディチャート)でも、以下のようなライフサイクル(30分、1時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間など)にマッチするパラメータ(期間)を用いることが多いですが、必ず、このパラメータでなければダメというものではないため、個々の投資家や実務者が使いやすいパラメータを利用するようにしましょう。ただし、コロコロとパラメータを変更するのは、好ましくありません。理由は、一貫した検証がおこなえないからです。
1分足:5、10、30、60・・・・
5分足:6、12、24、36、48・・・・
10分足:6、12、24、36、48・・・・
15分足:4、8、12、16、24・・・・
30分足:4、8、12、16、24・・・・
1時間足(60分足):4、8、12、24・・・・
2時間足(120分足):4、6、12、24・・・
※移動平均の主要なパラメータは、日本経済新聞出版社「日本テクニカル分析大全 日本テクニカルアナリスト協会 編」より抜粋
6. 移動平均における注意点とよくある勘違い
6-1.移動平均と横ばいトレンド(トレンドレス)
【AUDNZD 月足 12MAと48MA】

移動平均を利用する際の最大の注意点は、売買サインを盲目的に利用しないということです。
冒頭でお伝えしたとおり、移動平均の基本、言い換えれば「最大の目的」は、トレンドとその速度の把握です。上記チャートで特に2015年以降は、グランビルの法則もクロスオーバーメソッドも殆ど機能していません。しかし相場の方向性は、しっかりと「横ばいトレンド(トレンドレス)」と判断できる訳です。
※横ばいトレンドの場合は、グランビルの法則やゴールデンクロス・デッドクロスといった売買サインではなく、オシレータ系指標などを利用した売買サインを利用します。
【移動平均のGC、DCが全く機能しない相場イメージ】

・価格(黒)
・短期移動平均(9MA、赤)
・長期移動平均(18MA、青)
9MAが18MAを上回ったタイミングが最高値、9MAが18MAを下回ったタイミングが最安値となり、完全にGC、DCが機能しない。※全て単純平均で計算
7. まとめ:移動平均線はトレンド分析の第一歩
移動平均線はシンプルながら、相場分析(特にトレンド分析)の基本として非常に有効なツールです。いちいちチャート上にトレンドラインを引くことなく、トレンドラインと同じような使い方ができ、株式やFX、コモディティ、暗号資産といったアセットクラスの垣根無く、どのような金融指標であっても「どういったトレンドにあるのか」また、「いつ買うか・売るか」を判断する材料としても重宝されています。
まずは、自分のトレードスタイルに合うチャートで、使いやすいパラメータを探してみましょう。
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