(この記事は、2021年4月23日に公開した記事「資産運用として商品先物取引の活用方法」を2022年2月4日にリライトしたものです。)
成績を数字で管理することの重要性
皆さまこんにちは、資産運用の成績はいががですか?
資産運用に限った話ではありせんが、データを数字で管理することは、物事を成功させる上でとても重要なことです。
野球では、打率が4割を超えているとか、防御率が1.0を切っているといったように成績を数字で表現します。また企業の業績はバランスシートや損益計算書といった数字で評価されます。
資産運用や投資において重要になってくるのが、損益がどのくらい発生して、その利回りは何%だったのか。キチンと数字で判断することです。
ただ漠然と儲かりそうだから投資するというやり方は野性的でとても楽しい投資手法ですが、結果を求めるのであれば、その商品の値動きがどのような傾向にあったのか。「数字」で知っておくことが大切です。
その金融商品が過去どのくらいのパフォーマンスがあったのか購入する前に知ることができれば、その後の運用設計を考える際に活用できます。
例えば投資信託の場合、トータルリターンという考え方があります。
トータルリターンは、評価金額と受取分配金額を足したものから買付値段を引いたもので運用成績を数値化したものです。運用成績を数字で知ることができるので銘柄選びに役立てることができます。
商品先物取引の成績を数値化する
金標準先物やドバイ原油先物など先物取引の世界には、トータルリターンのような考え方はありませんが、日々取引所で取引されていますので、その価格変動を追うことでどのくらいのリターンとリスクがあったのかを知ることができます。
期待リターンは、過去の値動きから算出することができます。対象銘柄の値動きからどのような価格変動があったかを知ることで今後期待できるリターンを算出します。
金標準先物の期待リターンと推計リスク
上のチャートは1998年からの金標準先物における価格変動の推移です。2000年頃、金は1gあたり1,000円程度で取引されていました。それから、20年以上の月日を掛け2020年8月には7,032円まで上昇しました。
これまでの金価格の推移をパーセントで表現したものが期待リターンです。
今回は1年、3年、5年、10年、20年の過去データでどのような結果になったのか計算してみました。
2022年1月末を基準に過去データで算出した金標準先物の期待リターンと推計リスクは次のとおりです。
※先物取引は、売り買いどちらからでも取引できますが、ここでは価格変動率を指標としているため買いのみで計測しています。
期待リターンと推計リスク-金標準先物
期待リターン | 推計リスク | 上ブレ想定 | 下ブレ想定 | |
1年 | 6.91% | 5.17% | 17.25% | -3.43% |
3年 | 13.01% | 10.25% | 33.50% | -7.49% |
5年 | 8.74% | 9.84% | 28.42% | -10.94% |
10年 | 4.52% | 10.00% | 24.51% | -15.47% |
20年 | 8.92% | 13.65% | 36.23% | -18.39% |
※2022年1月末時点データを元に算出
※上ブレ想定、下ブレ想定は2σで計算
直近1年間のリターンは6.91%、それ以外の期間で算出した期待リターンも4.52%~13.01%と安定してプラスだったことが分かります。
金と言えば安全資産というイメージを持たれている方が多いと思いますが、期待リターンと推計リスクを数値化してみると、よりそのことが確認できます。
金は金利を生みませんので、資産運用には不向きとの考えもありますが期待リターンで見れば中長期に渡ってリターンを生み出しています。
もちろん、金標準先物はリスクがある取引です。どの程度のリスクがあるのか。リスクに関しても数値化することができます。なお、金融取引におけるリスクとは、ブレ幅を表しています。
先ほど見た昨年1年間のデータで算出した期待リターンは6.91%ですが、日によっては10%以上の好成績になる時もあれば、悪い日はマイナスになることもあります。
そのような日々のバラツキを数値で表したものが推計リスク(標準偏差)です。
上の表で示すように算出した推計リスクは5.17%~13.65%でした。
この推計リスクをしたものが標準偏差の図です。
正規分布図
68.3%の確率で期待リターンに推計リスクを足したパフォーマンスになり、95.4%の確率で期待リターンに推計リスクを2倍したパフォーマンスになります。
1年のデータでは推計リスクは5.17%でしたので、100回中68.3回は期待リターン6.91%に±5.17%したリターンに収まり、100回中95.4回は期待リターンに±13.82(2×6.91)%したリターンに収まります。
続いてプラッツドバイ原油を見てみたいと思います。
プラッツドバイ原油の期待リターンと推計リスク
(出所:TradingViewによるプラッツドバイ原油チャート)
上のグラフは2002年からのプラッツドバイ原油のチャートです。東京商品取引所(TOCOM)に上場していますので単位は円です。約20年のチャートですが、ご覧のように何回も上昇と下落を繰り返しています。2008年に起きたリーマンショック、2015年に起きたシェール革命、そして2020年に起きたコロナショックなど幾度となく起きた危機の度に原油価格は大きく値下がりしました。
期待リターンと推計リスク-プラッツドバイ原油
期待リターン | 推計リスク | 上ブレ想定 | 下ブレ想定 | |
1年 | 56.37% | 22.95% | 102.27% | 10.48% |
3年 | 6.96% | 29.80% | 66.55% | -52.64% |
5年 | 1.20% | 29.01% | 59.21% | -56.81% |
10年 | 0.60% | 27.05% | 54.70% | -53.50% |
※2022年1月末時点データを元に算出
※上ブレ想定、下ブレ想定は2σで計算
昨年から起きている急激な原油価格の上昇から直近1年のデータで算出した期待リターンは56.37%と高いものになっています。10年間のリターンは0.60%とほぼ横ばいの値です。
それに比べ推計リスクは、27.05%ととても大きなものになっています。±推計リスク×2で算出した上ブレ想定が+54.70%、下ブレ想定が-53.50%なので1年以内に価格が1.5倍になったり、半値になってしまうことが頻繁に起きていることが解ります。
期待リターンが0に近く、推計リスクがものすごく大きいということは、レンジ相場を形成しやすく、一度短期トレンドを形成するそのトレンドを継続しやすい傾向にあると考えることもできます。
他の商品と比べて原油先物取引は非常にリスクが大きい取引なので注意が必要ですね。
まとめ
※今回算出した期待リターンと推計リスクは原資産の変動を元に計算したものです。証拠金で取引できる先物取引では、レバレッジ具合によってより大きなリターンを期待することができますがその分リスクも大きくなります。
リスクとリターンを過去の値動きを知ることでその銘柄が長期運用に適しているのか。それとも短期運用に適した銘柄を知ることができます。
これから金標準先物、プラッツドバイ原油の取引を始めようという方の参考になれば幸いです。
参考文献
・ゼロからわかる ビジネス数学(岸本光永)-日本経済新聞社