この記事はフジトミ証券所属のCFP(1級FP技能士)の岩井が作成しました。
ノルドストリームは、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプラインです。
ロシアの政府系ガス会社ガスプロムが運営するパイプラインで、ロシアのヴィボルグとドイツのグライスヴァルトをバルト海の海底で結んでいます。
ノルドストリームは年間55bcm(※bcm=10億立方メートル)の天然ガスを送ることができますが、定期メンテナンスのため7月11日からドイツへの送ガスは停止されています。
パイプラインで天然ガスを送るにはタービンが必要ですが、ノルドストリームで使われていたタービンは、メンテナンスのためドイツのシーメンス・エナジー社のカナダ工場に送られ、整備されていました。
ここで問題になったのがカナダによるロシアへの制裁です。
カナダはロシアに対して金属・輸送および電子機器、機械の輸送製造への輸出を禁止しているので、タービンがそれに抵触してドイツに戻してもらえない(=パイプラインが稼働できない)可能性がありました。
今回その非常事態は回避され、17日、タービンは飛行機でカナダからドイツに輸送されました。この後タービンはドイツからフェリーでフィンランドのヘルシンキに運ばれ、そこからは陸路でロシアのヴィボルグに向かう予定です。
このノルドストリームの年間送ガス量55bcmというのはどのくらいの量なのでしょうか。
ロシアは世界最大の天然ガス輸出国で年間230bcm(2020年)輸出していましたのでノルドストリームだけでロシア総輸出量の24%を送っていたわけです。
輸入側からみると、ドイツは年間83bcmの天然ガスを輸入していました。ノルドストリームの55bcmとうのはドイツの輸入量の3分の2を占めるボリュームです。
次のグラフはドイツのエネルギー消費量を表したものです。
ドイツのエネルギー消費量(2020年)
※IEA
ドイツはエネルギー需要の27%を天然ガスによってまかなっていますが、その内3分の2がノルドストリームによるものです。ノルドストリームの停止が長期化した場合、ドイツ全体で、約18%エネルギー供給が停止し続けることになってしまいます。
ドイツは世界屈指の工業国で機械類、自動車、医薬品などを世界に輸出していますが、それらの製造工場を動かすためには「電気」が必要です。世界第3位の貿易量をほこるドイツ経済が電力不足でマヒすれば、世界中が大きなダメージを受けてしまいます。
仮にこの問題が長期化してドイツの機械類、自動車、医薬品の生産量が減少した場合は、それら工業品の世界的な供給不足を引き起こし、さらなる物価上昇を招く恐れがあります。
ノルドストリームの問題は、ドイツ国内だけではなく世界経済からみても大きな問題だと言えそうです。
早くノルドストリームが再開されますように。
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参考文献
・wikipedia-ノルドストリーム
・NHK-ロシア ドイツに天然ガス送るパイプライン 供給再開しない懸念
・IEA
・ノルドストリーム用タービン、カナダがドイツに輸送=ロシア紙